財務諸表論試験対策 引当金の4つの要件と計上根拠となる3つの原則

財務諸表論の理論問題に関する試験対策でも、簿記論と同様に「引当金」の項目が出てきました。

引当金に関しては正直、簿記論の試験対策では、退職給付引当金については相当勉強しましたが賞与引当金はまぁ、何というかそこまでのものではないですし、貸倒引当金については総合問題ではなかなか到達し得ない領域ですので、そこまで印象に残るような勉強はしていなかったはずです。

簿記試験対策「退職給付会計」原則法の基本的な処理
簿記の試験で出題される退職給付会計には「原則法」と「簡便法」の二種類があり、総合問題なんかをみていると、どちらかといえば簡便法で出題されてい...

しかし、財務諸表論の理論問題では、引当金に関して結構いろいろなことを覚えておく必要があるようで、簿記論と違って「その問題まで到達できない…」ということもないはずですので、早いうちにしっかり押さえておく必要がありそうです。

今回は、そんな「引当金」について、その概要と計上の根拠となる3つの原則を確認していきたいと思います。

スポンサーリンク

Contents

引当金の概要と該当するための4つの要件

まず、「引当金」の定義と、それを計上するための4つの要件を確認しておきます。

企業会計原則の注解(注18)には、「引当金について」として以下のような記載があります↓

【注18】引当金について

将来の特定の費用または損失であって、その発生が当期以前の事象に起因し、発生の可能性が高く、かつ、その金額を合理的に見積もることができる場合には、当期の負担に属する金額を当期の費用または損失として引当金に繰入れ、当該引当金の残高を貸借対照表の負債の部または資産の部に記載するものとする。

貸借対照表原則四の(一)のDの1項、(二)のAの3項及びBの2項

で、上記「引当金について」で列挙されている4つの項目つまり↓

  • 将来の特定の費用または損失である
  • 発生が当期以前の事象に起因する
  • 発生の可能性が高い
  • 金額を合理的に見積もることができる

というのが、引当金の計上要件になっています。従ってこれらの要件を満たすものについて、「○○引当金」というかたちで貸借対照表に登場させるということになります。

ちなみに、「負債の部又は資産の部に記載する」ということについてですが、「資産の部」に記載される引当金は「貸倒引当金」のことを言っているのでしょう。他のものは「負債の部」に記載されているのが普通ですよね?

で、この他にも「注解(注18)」では、引当金の種類に関しての記載がありました。そこに挙げられていた引当金の種類は以下になります↓

  • 製品保証引当金
  • 売上割戻引当金
  • 返品調整引当金
  • 賞与引当金
  • 工事補償引当金
  • 退職給与引当金(今は「退職給付引当金」?)
  • 修繕引当金
  • 特別修繕引当金
  • 債務保証損失引当金
  • 損害補償損失引当金
  • 貸倒引当金

参考:企業会計原則注解(注18)

簿記論の勉強をしていたときにも頻繁に見かけたものから、財務諸表論の試験対策を始めて新しく出てきたようなものもありますが、とりあえずはこいつらが基本的な引当金の例であるとのことです。

ただし、企業会計原則注解では「…等がこれに該当する」という表現がされていましたので、ここに挙げられている以外にも引当金の4つの要件を満たすものがあれば、何らかの名前を付して引当金処理をすることになるのでしょう。

そしてもうひとつ、「発生の可能性が低い偶発事象」については引当金を計上することができない、ということも、もしかしたら財務諸表論の本試験において何らかの形で問われることがあるかもしれません。うっかり忘れないように注意しておく必要がありそうです。

引当金に関してはどの会計基準にも記載が無い?

財務諸表論の試験に出題される他の論点は、企業会計原則系のものを除き、大体が「○○に関する会計基準」というかたちで「基準」としてその会計上の取り扱いが定められています。

しかし、「引当金」に関してはどこにもそのような基準がなく、先程の「企業会計原則注解」のみにしか記載がありませんでした。もちろん、もっとよく探せば何か見つかるのかもしれませんが、「基準が定めれれていない」ということは事実のようです。

そんな引当金についても、問題集にそれに関する理論問題があるということは、「注解」に挙げられている4つの要件以外のことも税理士試験の本試験では出題される可能性があるということになります。

特に、先程の「要件」ではなく、引当金を計上するための「根拠」というあたりが狙われてきそうな感じなんですが、法規集のどこを探してもそれらしき記述はなく、しかたがないので「cinii」を使って論文を検索し、引当金の計上根拠について取り上げているものを確認してみました。

計上の根拠となる3つの原則

法規集などでは見つからなかった引当金を計上するうえでの「根拠」、それでも専門の方が執筆した論文を読むと、財務諸表論の問題集で挙げられていた3つのものについて、それぞれ確認することができました。

以下では、それら3つの根拠、即ち「発生主義」「費用収益対応」「保守主義」について、それぞれ見ていくことにします。

発生主義の原則

引当金の計上根拠のうちまず「発生主義の原則」について、若林(2011)には以下のような記載がありました↓

…このように原因となる事実が引当経理の手がかりとなっているこの処理は、まさに発生主義原則の適用のほかならない。

若林 明(2011)引当金処理の現代的意義‐収益費用法と資産負債法に係わらせて‐LEC会計大学院紀要8(0)4頁

上記引用の前にも有用な手がかりがたくさんあったんですが、そこまで掲載するとかなり長くなってしまいますので、気になる方は原典のほうをどうぞ。

で、この「原因となる事実」というのが、発生主義の原則で言われる「財貨又は用役の勝ち費消原因事実の発生」という部分に該当するということなんでしょう。ここから、引当金の計上根拠が発生主義の原則にあるといえそうです。

費用収益対応の原則

費用収益対応の原則が引当金の計上根拠となることについても、先程と同一の論文から見つけ出すことができました↓

…当期の収益と対応関係にある広義の費用を、支出の原因となる事実の当期における生起を手がかりとして計上することを規定しているのである。ここに引当経理が費用収益対応の原則と発生主義の原則とを基礎原理としていることが明にされる。

若林 明(2011)引当金処理の現代的意義‐収益費用法と資産負債法に係わらせて‐LEC会計大学院紀要8(0)4頁

これも、「支出の原因となる事実が当期に存在していること」という引当金の計上要件のひとつに関する記載でした。

費用収益対応の原則では、先に収益が発生してその後、当該収益に関係する費用が発生するという場合には、その収益と費用を対応させるために費用の方を見越計上することにななります。

つまり、当期に発生した支出の原因となる事実、例えば売上などがあって、その割戻が次期以降に発生するということになると、その売上に対応する費用(割戻)分を当期に計上しておくことになり、そこで「売上割戻引当金」を計上する、というようなことでしょうか?

これも、なるほど…という感じですが、果たして財務諸表論の本試験で出題された場合に、そこまで詳しく解答欄に書けるのか?というと正直微妙です。

保守主義の原則

さて、最後に「保守主義の原則」を引当金の計上根拠とする場合についてです。これについては上記の2つとちょっと違っているようで、かなり古いものでしたが遠藤(1984)にそれに関する記載が見つけられました↓

…これによって偶発ー予想発生損益のある範囲のものを当期費用性があるとして適性に限定することは困難であって、引当金の論理としてきた発生主義ー発生原因主義、費用収益対応の基準をもってしては費用性を説明することはできない。このためこの引当金規定の修正を契機として、新しい引当金について、期間損益計算の論理による引当金と、保守主義による引当金とに分けて認める傾向が盛んになってきているのである。

遠藤 孝(1984)引当金会計制度の成立と変遷 駒澤大学経済論集15(3/4)199-243 239頁

この根拠についてはよくわかりませんが、とにかく保守主義の原則により、企業にとって将来のリスクというか不利益を及ぼす可能性があるものについては引当金を計上しておこう、という感じなのでしょうか?

そのあたり、引当金が計上できない「偶発債務」との垣根がよくわからないんですが、そこは「発生の可能性が高い」というあたりでカバーしているんでしょうか?よくわかりませんね…

とにかく4つの要件と3つの根拠を覚えておくことにします

今後、税理士試験の本試験までの間、財務諸表論で出題される引当金の理論問題に関する試験対策としては、上記4つの要件と3つの計上根拠を基礎として進めていきたいと思います。

おそらく後々応用的な問題を解くことになっても、これらの要件・根拠はどこかしらに必ず絡んでくるはずですので、それと他の論点の絡みなど、いろいろと使うべきときが繰るんじゃないかと感じています。

特に、発生主義や費用収益対応の原則などは、ここ以外でも頻繁に登場する原則です。これらの原則をもとに、「引当金の計上とと○○の違いを…」などといった問題が本試験で出てきても不思議ではありません。

あと、「保守主義の原則」を引当金の計上根拠とする場合についても、もう少し細かく知っておきたいところですので、これについても引き続き情報を収集していくことにします。

財務諸表論の理論問題では、引当金に関する論点は結構重要なもののようですので、これから再開する簿記論の計算問題に加えて、理論的な部分もしっかり押さえていくようにしたいところです。

スポンサーリンク
スポンサーリンク



スポンサーリンク