財務諸表論の試験対策にて、「繰延資産」についていろいろと考えさせられることが出てきました。
繰延資産といえば、同じ税理士試験に属する簿記論の試験対策においては、それぞれの処理の方法などをきっちり確認しておけばそこまで苦労せずに解答できるようなものでした↓
しかし、財務諸表論、それも理論の試験対策となるとそのようなことはなく、法規集のいろんなページを行ったり来たりしなくてはならないような複雑なものであることがわかりました。
今回は、そんな「繰延資産」の理論的な部分について、その基本的な内容から、繰延経理をされる根拠などについて確認していきます。
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繰延資産の意義
まず、繰延資産とはどのようなものが該当するのか?について確認しておきます。
これについては「繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い」において、「企業会計原則注解(中15)」を襲踏する、ということが書かれています。その「注解(注15)」の内容は以下のとおりです↓
【注15】将来の期間に影響する特定の費用について
「将来の期間に影響する特定の費用」とは、既に対価の支払が完了しまたは支払義務が確定し、これに対応する役務の提供を受けたにもかかわらず、その効果が将来にわたって発現されるものと期待される費用をいう。
これらの費用は、その効果が及ぶ数期間に合理的に配分するため、経過的に貸借対照表上繰延資産として計上することができる。
※貸借対照表原則一のD及び四の(一)のC
冒頭で「繰延資産」という表現ではなく、「将来の期間に影響する特定の費用」という言い回しになっていますが、このあたり、財務諸表論の理論問題で「穴埋め」などとして出題されてもおかしくなさそうな感じです。
とにかく、こういったものが「繰延資産」として取り扱われるとのことですが、実際には簿記論の試験対策でも出てきた(たぶん日商簿記2級クラスでも出てくる)以下の5つが該当することになっています↓
- 株式交付費等
- 社債発行費等(新株予約券の発行に係る費用を含む)
- 創立費
- 開業費
- 開発費
で、こいつらに関する簿記上の計算なんかは特にこれといった問題点は無いんですが、財務諸表論で出題される「理論問題」に関してはこれで終わりではないようです…
繰延経理の根拠
繰延資産の処理に関して、「繰延資産の会計処理に関する当面の取扱い」では上記5種類の繰延資産それぞれに関する処理についてが、「企業会計原則注解」では繰延資産の定義などが記載されていました。
しかし、これらには「繰延経理をするうえでの根拠」が示されておらず、財務諸表論の試験対策をしていてよく目にする「効果の発現を…」等のフレーズは見当たりませんでした。
そこで、古い問題集などの解説が法規集のどの部分を参照しているのか確認してみたところ、そうやら「繰延経理の根拠」については「企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書(以下連続意見書)」の部分に記載があったようです。
そこでは、繰延資産、つまり将来の期間に影響する特定の費用が繰延経理される根拠として以下のような記載がありました↓
ある支出額が繰延経理される根拠は、おおむね以下の2つに分類することができる。
- ある支出が行われ、また、それによって役務の提供を受けたにもかかわらず、支出もしくは役務の有する効果が、当期のみならず、時期移行にわたるものと予想される場合、効果の発現という事実を重視して、効果の及ぶ期間にわたる費用として、これを配分する。
- ある支出が行われ、また、それによつて役務の提供を受けたにもかかわらず、その全額が当期の収益に全く貢献せず、むしろ、時期以降の損益に関係するものと予想される場合、収益との対応関係を重視して、数期間の費用として、これを配分する。
参考:連続意見書第五 繰延資産について「二 繰延資産と損益計算」
この連続意見書、どうやら昭和38年のものであるようなんですが、なんだかんだで今でも通用してしまっているというのが凄いですね…
で、ここで主張されている「繰延資産の計上根拠」は2つあるんですが、まず「1.」の方は費用配分の原則を、次の「2.」では費用収益対応の原則を意味しているようです。
正直、この2つの原則は会計学的な勉強では頻繁に登場するのですが、財務諸表論の試験対策においてもやはりそこかしこに出現するんですね。本試験でも一箇所ぐらいはこれらについて問われる問題がありそうな気がします。
前払い費用との違い
次に、上記の「繰延資産の計上根拠」を示す文章のちょっと前にあった、「繰延資産と前払、費用の違い」について確認しておこうと思います。
確かに、両者は「既に支払った費用」が時期以降の会計期間に影響してくるという点で同じもののように見えます。では、こいつらの”違い”はどこにあるのか?それについて「連続意見書」では以下のような記載がありました↓
…前払費用は、前に述べたように、すでに支払は完了したが、未だ当期中に提供を受けていない役務の対価たる特徴を有している。これに対し、繰延資産は、支払が完了していることは同様であるが、役務そのものは既に提供されている場合に生ずる。
参考:連続意見書第五 繰延資産について「二 繰延資産と損益計算」
上記のとおり、「前払費用」というのは、例えば来年1年分の保険料などのような、当期には全く役務の提供を受けていないものに関するものであるのに対し、繰延資産として扱われる5つの費用は確かに役務そのものは「既に提供されている」状態で、その支出の効果が時期以降にも及ぶものといえそうです。
財務諸表論の本試験対策としては、このあたりのことを「連続意見書」通りの文章できっちり覚えるべきなのか、それともこの事実だけを把握してそれを簡潔に答えることができる世になればよいのか、そこはちょっとよくわかりませんが、実際に説明するのは大変だ、ということはよくわかります…
概念フレームワークにおける「資産」との兼ね合い
最後にこれはどっかの問題集に載っていた問題でこんなのがあったため、一応調べたのですが、繰延資産と「概念フレームワーク」における資産との兼ね合いで、果たして繰延資産は資産性を有するものなのか?といったものです。
もちろん、繰延資産自体を換金することはできませんから、普通に考えればちょっと怪しいところです。そもそも”費用”なわけですし…しかし、「概念フレームワーク」においては資産性を有するもの、というか「資産の定義には必ずしも反していない」としています。
で、一応確認しておくと、概念フレームワークの「資産」は「過去の取引または事象の結果として報告主体が支配している”経済的資源”」となるわけですが、このことも踏まえて繰延資産の資産性について、以下を参考に確認します↓
- …経済資源は市場での処分可能性を有する場合もあれば、そうでない場合もある。
- 一般に、繰延費用と呼ばれてきたものでも、将来の便益が得られるものであると期待できれば、それは、資産の定義には必ずしも反していない。その資産計上がもし否定されるとしたら、資産の定義によるものではなく、認識・測定の要件または制約による
参考:討議資料 財務会計の概念フレームワーク「第3章 財務諸表の構成要素」
ということで、貨幣性資産に交換することが叶わない繰延資産であっても、一応は資産としての定義から外れていないということになります。
もし、財務諸表論の本試験で「繰延資産は資産性を有するか?」という問があった場合には、「有する」と解答しても問題はなさそうです。
しかし、「資産として計上する根拠」を問われた場合、それが費用配分の原則や費用収益対応の原則を答えるべきなのか?それとも概念フレームワークで資産性があるとされているからと答えるべきなのか?問題文の内容によって使い分けなくてはならないかもしれません…
このあたり、本試験の問題に関して詳しいことは、今後練習問題を本格的にやっていくようになるまではわかりませんが、今のうちはどんな問題でも対応できるよう、基本的なものからちょっと細かいところまで知識を詰め込んでおくのが無難な気がします。
まとめ
繰延資産に関しては、簿記論の試験対策ではそこまで重たい内容には思えず、今年、というか来年の試験に向けた勉強でも、特にこれといって気にはしていません。しかし、同じ税理士試験でも財務諸表論の理論問題については、上記のような細かくややこしい内容が出題される可能性があるみたいです。
このような理論問題で重要になりそうな論点は、今やっているようにノートに穴埋め問題を作って重要論点を覚えていくのと同時に、法規集やネットなどで詳細を掘り下げていくことになりそうです。
なお、繰延資産についてもまだまだよくわからない内容がそこかしこにありましたので、このあたりも今後、問題集などをやっていくうえで気になったのであれば、またしっかりと確認し、記事にまとめて備忘録にしたいと思います。