簿記の問題で商品売買の処理をするとき、恐らく大半の人は特に指示がなければ、仕訳には「三分法」を用いて解答を進めていくでしょう。僕もそうです、以前、商品売買の値引・返品などについて記事を書いたときにも何気なくそうしていました。
※商品売買における値引等の処理については以下の記事から↓
簿記試験対策「商品売買」~返品・値引・割戻及び割引の処理~
また、参考書や問題集なんかを見ても、解答・解説では基本的に三分法で処理されていることと思います。
しかしながら、商品売買の処理には三分法も含めて4種類の方法が存在しています。で、それらが簿記の試験で出題される可能性が無いとは言えませんし、実際税理士試験の簿記論の過去問を見ても様々な方法で「仕訳だけ」行うような問題が出題されていました。
ちなみに4種類とは↓
- 三分法
- 分記法
- 売上原価対立法
- 総記法
のことです。今回はそれぞれの期中・期末における処理について確認していきます。
Contents
三分法の処理
まずはお決まりの三分法です。これに関しては特に説明は要らないかと思いますが、一応確認しておきます。三分法によった場合の処理は、商品(繰越商品)と仕入、売上の3つの勘定科目を用いて商品売買の処理を行っていくことになります。では、以下で三分法による処理の流れを確認していきます。
はじめに、商品を仕入れた場合の仕訳は、
仕入 ○○ | 買掛金等 ○○ |
ということになります。借方に「仕入」を持ってきて、相手勘定を貸方持ってきます。このときの相手勘定は「現金預金」かもしれませんし、「掛による取引」、その他「前払金」を用いてくることも考えられますので、要確認です。特に穴埋め問題なんかだと当期の総仕入高の内訳が結構複雑になってくるようですので注意しておく必要がありそうです。
次に商品を売り上げた場合の仕訳です。
売掛金等 ○○ | 売上 ○○ |
このときは普通に「売価」で売上を計上して、相手勘定は問題文の指示に従って記帳することになります。こちらも相手勘定が何になるかはわからないため、よく確認して解答する必要があります。上の仕入に関する処理でもそうですが、日商簿記なんかでよくある「仕訳問題」で勘定科目を間違えて失点するなんていうもったいないことはしたくないものです。
最後に決算時の処理についてです。三分法では「決算整理仕訳」を行う必要があります。
仕入 ○○ | 繰越商品 ○○ |
繰越商品 ×× | 仕入 ×× |
一列目は「期首」の繰越商品を仕入れに振替える。
二列目は「期末」に残っていた商品を新たに「繰越商品」とする。
はじめに前期に仕入から控除して繰越商品としたものを、もう一度仕入にします。これで前期の繰越商品が今期の売上原価に算入されたことになります。そして、今期に余っている分を来年度に持ち越す「繰越商品」として仕入から控除します。これでその分については今期の売上原価からも控除されたことになります。
分記法の処理
次は「分記法」によって商品売買の処理をする場合です。分記法では、仕入時には「商品」勘定を用いて処理します。そして、売上時には商品の「原価分」と「商品販売益」に分けて処理をすることになります。こちらも、取引の流れに沿って確認していきましょう。
商品の仕入時には借方に「商品」を持ってきて商品勘定を増加させます。
商品 ○○ | 買掛金等 ○○ |
先程の三分法の場合に「仕入」だった部分が「商品」に変化しています。分記法では商品勘定を直接増加させていくかたちになるんですね。
続いて商品の売上があった場合の処理です。ここがちょっと特殊になってきます。
売掛金等 ○○ | 商品 ×× |
商品販売益 △△ |
※商品販売益:商品の売価と原価の差額
実際に簿記の問題で出題される際には、おそらく「商品~~円分を××円で販売した」みたいな記載があるかと思います。それに基づいて販売さされた商品の原価分と、それに係る販売益分に分けて仕訳していくことになります。
最後に、決算整理についてです。分記法では、仕入ごとに商品勘定が増加していき、売上時にはその商品勘定から販売された分が直接控除されることになります。と、いうことは「決算整理前残高試算表に記入されていた商品勘定が、そのまま当期末の商品の残高である」ということになります。従って、「決算整理仕訳は不要」ということになります。
・仕訳なし
これで、分記法の処理は終わりになります。期中の売上時に「商品」と「商品販売益」を分けなくてはならないのが面倒ですが、その分決算整理仕訳をしなくてもよいので行って来いになります。
売上原価対立法の処理
第3に、「売上原価対立法」の処理です。これはテキストや問題集によっては「売上原価計上法」となっているものもありますが、別にどっちでも良いようです。で、この方法では、商品と売上、それに「売上原価」の3つの勘定を用いて商品売買の処理をしていくことになります。
まず、仕入時の処理は分記法のときと変わりません。
商品 ○○ | 買掛金等 ○○ |
これはもう大丈夫かと思います。商品勘定を増加させて相手科目は支払手段ということになってきますね。
次に売上時の処理です。売上原価対立法でも、ここの処理が特殊な感じになっています。
売掛金等 ○○ | 売上 ○○ |
売上原価 ×× | 商品 ×× |
商品を販売した際には、まず三分法と同じように売上を計上することになります。しかし、そのままだと売上原価がいくらなのかわからなくなってしまうため、それに対応する商品勘定を貸方にもってきて減額し、相手勘定として「売上原価」を計上することになります。
最後に、決算整理仕訳についてなんですが、売上原価対立法による場合も、分記法のときと同じく、仕入時と売上時(売上原価の計上時)における「商品」の変動によって決算整理前残高試算表に残っているものが、そのまま当期末の商品有高ということになるため、こちらの場合も「決算整理仕訳は不要」ということになります。
・仕訳なし
総記法の処理
最後に「総記法」の処理についてです。正直こいつはどこで出題されるのかわかっていませんが、なんかテキストとかには載っているため、一応確認しておきます。他の方法に比べて期末商品の把握が厄介なので、出題されたら強敵になりそうな予感です。
さて、総記法による場合には、仕入時も売上時も同様に商品勘定を用いて処理することになります。実際の処理の流れを確認してみましょう。
まず、商品の仕入時の処理は分記法、売上原価対立法と同じになります。
商品 ○○ | 買掛金等 ○○ |
よく考えたら三分法以外は全部この形になっています。このことを意識しておけば、いざ出題されたとき迷わなくてすみそうです。
次に、売上時の処理です。総記法の場合には商品勘定を「売価」で貸方へ持ってくることになります。
売掛金等 ○○ | 商品 ○○ |
売価でそのまま商品を減額する
総記法の場合には、仕入時に原価で借方に計上された商品を、売上時には付加価値をのせた売価で貸方に計上することになります。そうすると、場合によっては商品勘定の残高が貸方に残ってしまうようなことも考えられます。
「商品」が借方残高か貸方残高か、総記法ではこれによってその期の「商品販売益」の計算方法が異なってくることになります。
総記法の商品販売益:借方残高の場合
まず、商品勘定の残高が借方に残った場合です。この場合には「期末商品-商品残高」が商品販売益の金額になります。わかり辛いので設例で確認していきましょう。
設例
・期首商品棚卸高:100円
・当期商品仕入高:1,000円
・当期売上高:800円(原価500円)
・期末商品棚卸高:600円
仕入時の仕訳
商品 1,000 | 買掛金 1,000 |
売上時の仕訳
売掛金 800 | 商品 800 |
商品勘定:期首商品100円+借方200円=300円
商品販売益:期末商品棚卸高600円-商品残高300円=300円
確かに、1回しかない売上で出ている商品販売益300円(売価800円-原価500円)と同じになりました。なんだかよくわからんけどそういうことになっています。
総記法の商品販売益:貸方残高の場合
今度は貸しに残高が残った場合です。このときの商品販売益は「期末商品+商品残高」となります。ちょうど借方残高の場合と逆!と覚えておけばいいんですが、一応設例で確認しておこうと思います。
設例
・期首商品棚卸高:100円
・当期商品仕入高:1,000円
・当期売上高:1,200円(原価700円)
・期末商品棚卸高:400円
仕入時の仕訳
商品 1,000 | 買掛金 1,000 |
売上時の仕訳
売掛金 1,200 | 商品 1,200 |
商品勘定:期首商品100円-貸方200円=100円(貸方)
商品販売益:期末商品棚卸高400円+商品残高100円=500円
こっちもぴったり売上時に見えている商品販売益と合致してきました。わかりにくいけど最悪やり方だけ覚えてしまえば簡単ですね。出題されるかは知りませんが…
まとめ
商品販売の処理には、今回まとめたもの以外にも「二分法」なるものがあります。おそらく初歩的なところから簿記を始めた場合に最初に習うんじゃないでしょうか?で、これについては面倒なのでやむなくスルーしました。
また、三分法以外で「値引・返品・割戻」の処理をする場合には、少し変わった形を取らなくてはならない部分もあります。それについては機会があったら追記しようと思います。