簿記試験対策「工事契約」~工事完成基準と進行基準~

企業会計では、「工事契約」に関する処理は、普通の製造業会計とかそういったものとは異なる処理がなされることになっています。簿記のテキストを見ていても、問題集を解いていても、この工事契約に関しては結構ページを割いているような印象です。結構出目が高いんでしょうね…ただ、日商簿記2級までは出題範囲に含まれていない内容であるため、上位の試験を受けるときには初見になってしまうことへの配慮なのかもしれません。いずれにせよ「本試験で出そう」なのは変わりありません。

と、いうことで今回は、「工事契約」について「工事完成基準」による場合と「工事進行基準」による場合に分けて確認していこうと思います。しかしその前に、工事契約の処理については普段と違う名前の勘定科目を使用することになるため、どの科目が普段のどれに対応するのかだけ確認しておきます。

勘定科目対応表

普段の科目工事契約の科目
前受金未成工事受入金
仕掛品未成工事支出金
売掛金工事未収入金
買掛金工事未払金
売上高完成工事高
売上原価完成工事原価

普段使いの勘定科目がぜんぜん違う名前に変えられてしまっています…
しかし慣れてくれば自然に思い出せますし、よく見れば察しが付きそうな名前です。

では、科目の確認が済んだところで、まず「工事完成基準」について見ていきましょう。
なお、工事契約でも普通の製造業会計みたいに、「材料費」とか「労務費」とかを計算して、その集計をしていくことになりますが、長くなるとイヤなので端折ります。

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工事完成基準の処理

工事完成基準では、工事の完成、引渡しをもって収益と費用を認識することになります。
当然、その間もお金はかかっているわけですから、その分の費用を「未成工事支出金」として処理しておきます。

工事契約に関する会計基準より抜粋

工事の完成・引渡しまでに発生した工事原価は、「未成工事支出金」等の適切な科目をもって貸借対照表に計上する。

※中央経済社 編(2012)「会計法規集」260頁

次に、年度をまたぐような大規模な工事をしているわけですから、自費だけで最初から最後まで作ってしまおうと思っても、途中で資金がショートしてしまうはずです。ゆえに、途中で施主から工事代金の前受を行うことになるわけですが、こういった場合には「未成工事受入金」を用いて処理することになります。

では、工事完成基準の処理について簡単な設例を用いて確認してみましょう。

設例

当社は建物の工事を10,000円で請け負った。この工事の見積原価は5,000円である。

発生費用代金の受取
請負年度3,000円5,000円
完成年度2,000円 なし

※工事完成基準による

 請負年度
現金預金等 5,000 / 未成工事受入金 5,000
(工事代金の前受)
未成工事支出金 3,000 / 現金預金等 3,000
(当期の支出額)

完成年度
未成工事支出金 2,000 / 現金預金等 2,000
(当期の支出額)
未成工事受入金 5,000 / 完成工事高 10,000
工事未収入金  5,000 /
(完成工事高(売上)10,000円-受入金5,000円=工事未収入金5,000円)
完成工事原価 5,000 / 未成工事支出金 5,000
(原価の計上)

特に困りそうなところは見当たりませんが、「未成工事受入金」をしっかり把握しておかないと、最後の完成、引渡し時の処理がおかしくなってしまいます。3年以上の会計期間に渡る工事で、途中で受入金が発生している問題もあったので、処理忘れに注意が必要かと思います。

工事進行基準の処理

工事契約の問題を解く際に厄介になってくるのはこっちでしょう。工事進行基準では決算ごとにその工事の進捗度に応じて収益と原価を計上していくことになるため、毎期それらを測定しなくてはなりません。

また、工事進行基準にはその採用にあたって要件が定められています。まずはそこから確認していくことにします。

採用の要件

まず、工事進行基準を採用するためには、その工事の進行途上において、進捗部分に「成果の確実性」が認められることが必要になってきます。で、この「成果の確実性」が認められるかどうかの判断基準として、

  • 工事収益総額を信頼性を持って見積もることができる。
  • 工事原価総額を信頼性を持って見積もることができる。
  • 工事の進捗度を信頼性を持って見積もることができる。

という3つの要件をクリアできるかどうかで判断します。まず、工事収益は工事の完成見込みが確実であり、対価の定めがあることが必要になります。次に工事原価については、「事前の見積りと対比することによって、適時・適切に工事原価総額の見積りの見直しが行われている」ことが条件になります。で、工事原価総額について信頼性を持って見積もることができる場合には、「原価比例法」を用いていれば、自ずと工事進捗度についても見積もることができる、いう事になっています。難しいですね…ちなみにこの部分は財務諸表論の理論問題でも出そうなんでよくわからんけど暗記しています。

さて、この条件に合致していることが分かった場合、晴れて工事進行基準を適用することができます。その会計処理について「工事契約に関する会計基準」では、

工事契約に関する会計基準より抜粋

工事進行基準を適用する場合には、工事収益総額、工事原価総額及び決算日における工事進捗度を合理的に見積り、これに応じて当期の工事収益及び工事原価を損益計算書に計上する。

※中央経済社 編(2012)「会計法規集」260頁

みたいなことが書かれています。これだけだと何言ってるかわからないので、以下で実際にその処理を確認していきます。

工事進行基準の処理

工事進行基準では、その工事の途上であっても決算ごとに収益と費用を計上していくことになります。その基準として用いるのが、「当期(まで)の発生原価」「決算日における工事進捗度」になります。

ちょっと簡単な設例で確認してみましょう。

設例

当社は建物の工事を10,000円で請け負った。この工事の見積原価は5,000円である。

発生費用代金の受取
請負年度3,000円2,000円
完成年度2,000円 なし

※工事進行基準による、実際発生原価は見積りの通りであった。

 請負年度(期中の仕訳)
現 金  預 金  等 2,000 / 未成工事受入金 2,000
未成工事支出金 3,000 / 現  金 預 金 等 3,000

請負年度(期末の仕訳)
完成工事原価 3,000 / 未成工事支出金 3,000
工  事 未収入金 4,000 / 完成工事高 6,000
未成工事受入金 2,000 /
(工事収益10,000×当期原価3,000円/総原価5,000円=完成工事高6,000円)

完成年度(期中の仕訳)
現金預金等 2,000 / 未成工事支出金 2,000

完成年度(期末の仕訳)
完成工事原価 2,000 / 未成工事支出金 2,000
工事未収入金 4,000 / 完成工事高 2,000
(工事収益10,000×5,000円/5,000円-6,000円=完成工事高4,000円)

気をつけるべきは、請負年度に前受した「未成工事受入金」を、その期の「工事未収入金」から控除して「完成工事高」と対応させることです。工事完成基準の時にはこれが完成・引渡し時にまとめて未収入金から差し引かれていましたが、こっちは途中でも収益・原価の計上を行うことになるため、その年度ごとに打ち消していく必要があります。特に、途中で「工事未収入金」と「未成工事受入金」のどっちが余りになっているのかわからなくならないように、きっちり集計していかないとなりません。

見積りの見直し

さて、工事進行基準では「適時・適切に」工事原価とか収益とかの見積りの見直しが行われています。ゆえに、途中でそれらの見積金額に変更がかかることになり、そういった場合には対応する処理を行っていかなくてはなりません。

では、工事収益と工事原価の見積りが見直された場合について、設例で確認していきます。

設例

当社は建物の工事を10,000円で請け負った。この工事の見積原価は5,000円である。

予定発生費用代金の受取
請負年度3,000円2,000円
翌年度1,000円
完成年度1,000円 なし

※工事進行基準による

翌年度に、工事の請負代金が11,000円、工事原価の見積りが7,000円に見直された。
・翌年度の実際発生原価:2,000円
・完成年度の実際発生原価:2,000円

 請負年度(期中の仕訳)
現 金  預 金  等 2,000 / 未成工事受入金 2,000
未成工事支出金 3,000 / 現  金 預 金 等 3,000

請負年度(期末の仕訳)
完成工事原価 3,000 / 未成工事支出金 3,000
工  事 未収入金 4,000 / 完成工事高 6,000
未成工事受入金 2,000 /
(工事収益10,000×当期原価3,000円/総原価5,000円=完成工事高6,000円)

翌年度(期中の仕訳)
未成工事支出金 2,000 / 現金預金等 2,000
(見直し後の金額)

翌年度(期末の仕訳)
完成工事原価 2,000 / 未成工事支出金 2,000
工事未収入金 1,857 / 完成工事高 1,857
(収益11,000円×原価2期分5,000/総原価7,000=当期までの収益7,857円
⇒7857円-前期の収益6,000円=当期の収益1,857円)完成年度⇒同様にして計算

収益や原価の見積りが見直された場合には、見直し後の金額と、当期までの実際発生原価を用いて投機までの収益を計算した後に、前期までに計上されていた収益を控除するかたちになります。一見複雑そうな処理ですが、数字が変わったというだけでやってることは同じです。

工事損失引当金

最後に、見積りの見直しがなされた結果、どう考えても赤字になってしまう…というような場合です。このときは「工事損失引当金」を設定して、先に損失を認識しておかなくてはなりません。

先程の設例を改変したもので確認してみます。

設例

当社は建物の工事を10,000円で請け負った。この工事の見積原価は5,000円である。

予定発生費用代金の受取
請負年度3,000円2,000円
翌年度1,000円
完成年度1,000円 なし

※工事進行基準による

翌年度に、工事原価の見積りが11,000円に見直された。
・翌年度の実際発生原価:4,000円
・完成年度の実際発生原価:4,000円

 請負年度(期中の仕訳)
現 金  預 金  等 2,000 / 未成工事受入金 2,000
未成工事支出金 3,000 / 現  金 預 金 等 3,000

請負年度(期末の仕訳)
完成工事原価 3,000 / 未成工事支出金 3,000
工  事 未収入金 4,000 / 完成工事高 6,000
未成工事受入金 2,000 /
(工事収益10,000×当期原価3,000円/総原価5,000円=完成工事高6,000円)

翌年度(期中の仕訳)
未成工事支出金 2,000 / 現金預金等 2,000
(見直し後の金額)

翌年度(期末の仕訳)
完成工事原価 4,000 / 未成工事支出金 4,000
工事未収入金  364 / 完成工事高  364
(収益10,000円×原価2期分7,000/総原価11,000=当期までの収益6,364円
⇒6,364円-前期の収益6,000円=当期の収益364円)
当期の損失額:原価4,000円-収益364円=3,636円
これまでに発生した損益は
①請負年度:収益6,000円-原価3,000円=3,000円の利得
②翌 年 度:3,636円の損失
⇒①-②=636円の損失完成時に見込まれる損失1,000円から翌年度までに発生している損失636円を控除した364円を工事損失引当金とする。工事損失の仕訳
完成工事原価 364 / 工事損失引当金 364完成年度⇒同様にして工事原価、工事収益を計算した後、工事損失引当金の取崩を行う。

かなり考えることが多くてイヤになっちゃうんですが、

  1. 見積りが変更されて損失が出ことになったのを確認
  2. その期までの損益のトータルを計算
  3. 最終的に発生する損失の金額との差額を引当金にする

という流れでやっていけば何とかなるような気がします。ちなみに、まだ僕もそんなに難しい問題をやってみたわけでもないのでなんともいえませんが、いくつかある工事契約のうちのひとつが「損失」とかだった場合にごちゃごちゃしてわかりにくくなりそうな気がします。今後、本試験レベルだとどんな奴が出てくるのかについても確認する必要がありますね…

まとめ

工事契約について、「工事完成基準」「工事進行基準」ときて、「工事損失引当金」までを一気に確認しましてが、工事契約がヤバイのは簿記論だけでなく財務諸表論(特に理論)の方も同じだと思います。ゆえに、そっちの方も「簿記の問題で流れを理解しながら」やっていくことにします。そうすれば丸暗記じゃなくて、「会計基準なんとか委員会」とかその辺の方々が言ってることの意味をわかったうえで解答できるんじゃないかと踏んでおります。

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