簿記試験対策「外貨建会計」~外貨建取引の期末換算と為替予約~

近年、経済のグローバル化によってどんな企業でも「海外との取引」を行う機会があるように思えます。しかし、そこに付きまとってくるのが”通貨単位の違い”です。で、もちろん現在は1ドル360円固定!みたいな相場ではないため、日々為替の変動が起こっています。最近だと1ドル106円台まで円高が進行したようですね…

為替の変動が起こるということは、企業が海外の企業なんかと外貨を使って取引した際、決済までの間にその変動によってちょっと得したり、損したりすることもあります。そこで簿記では為替による換算差額を「為替差損益」みたいな感じで表すことにしています。

と、ここまではいいと思うんですが、問題となってくるのは「どこで何にどの換算レートを用いるのか?」とか「急激な変動でガッツリやられないように為替予約を付した場合は?」ということでしょう。今回はそんな外貨建会計の「期末換算」と「為替予約」の処理について確認していきます。

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決算時の適用レート

外貨建の取引を行った際、例えばそれが期中で完結するようなものであれば、
「取引日⇒その日のレート」「決済日⇒その日のレート」
「”その日のレート”間の差額⇒為替差損益」
というように、普通に換算差額を計算してやればいいでしょう。

例)当期に海外の企業から1ドルの仕入をし、その後に決済した。
・取引日のレート:1ドル100円
・決済日のレート:1ドル110円
⇒取引時の仕訳
仕 入 100 / 買掛金 100
⇒決済時の仕訳
買 掛 金 100 / 現金預金 110
為替差損益 10 /

しかし、取引してから決済されるまでの間に、「決算日」をまたいでしまうことも考えられますよね。そういう場合には当該資産、負債の種類に応じて決算日のレートを用いるのか、それとも取引日のレートのままいくのかを判断していかなくてはなりません。

例)当期に海外の企業から1ドルの仕入をした。決済は翌期である。
・取引日のレート:1ドル100円
・決算日のレート:1ドル105円
・決済日のレート:1ドル110円(翌期)
★ここで「決算日のレート」に評価替するかどうか?

決算日のレートを用いるもの

決算日のレートを用いるものは、主に「金銭債権・債務」になってきます。
が、他にも様々なものがあります。具体的には↓

  • 売掛金/買掛金
  • 未収金/未払金
  • 貸付金/借入金
  • 未収収益/未払費用
  • 外貨や外貨預金
  • 社債

などとなっています。金銭債権債務以外にも未収収益みたいな「経過勘定項目」なんかも決算日のレートに評価替することになります。

取引日のレートを用いるもの

一方、決算日をまたいでも評価替せず、取引日のレートのままになるものもあります。
それらを挙げると↓

  • 棚卸資産や固定資産
  • 前払金/前受金
  • 前払費用/前受収益

などということになっています。確かに、固定資産とかそういうものは特に為替変動の影響を受けないように思います。しかし、前払金や前受金、前払費用、前受収益という、一見して決算日のレートになりそうなものが含まれています。なんででしょう?

前払・前受はなぜ取得日レート?

前受金とか前払収益とかを決算日レートで評価しないのはなぜか?「未払」の方はそうするのにも関わらずです…
その理由は「前」の一文字に集約されています。こいつらは決算日とか決済日とか関係なく「既に払込、受取が完了している」ものであるため、そのあと為替変動があったとしても、その影響を一切受けることはありません。ゆえに「前」のつく4種類の科目については「取引日のレート」のまま評価することになるんですね。

例)来期に100ドルの売上を約束し、手付金(前受金)として10ドルを受け取った。
・前受時のレート:1ドル100円
・決算日のレート:1ドル105円
・売上日のレート:1ドル110円
⇒前受金受取時の仕訳(1ドル100円)
現金預金 1,000 / 前 受 金 1,000
(↑すでに1,000円を受け取っているため決算日に1ドルが105円になっても変化なし)
⇒決算日の仕訳(1ドル105円)
仕訳なし
⇒売上時の仕訳(1ドル110円)
売 掛 金 9,900 / 売  上 10,900
前 受 金 1,000 /

実際に取引が行われた際には、もともと計上してあった前受金をそのまま逆に持ってきて消滅させ、外貨で考えた残りの金額、今回の場合は「売上100ドル-前受10ドル=90ドル」を取引時のレートで売掛金とします。なお、他の「前」シリーズについても同様の処理をしていくことになります。

為替予約の処理

国内企業が外貨建で取引するにあたり、その決済日まで頻繁に為替レートが変動し、得られる金額が大きく変わってくる。というような状況ではたまりませんよね…そこで、その為替変動リスクを打ち消すべく、あらかじめ約束したレートで外貨の売買を行う「為替予約」を付す場合があります。

そしてそのための手段として、原則法である「独立処理」と、特例として認められている「振当処理」があります。原則とか特例とか言ってますが、簿記の試験で出題されそうなのは「振当処理」の方であり、ゲロめんどくさいです。
では、それぞれについて確認していきます。

原則:独立処理

独立処理は、外貨建の債権/債務と、為替予約をそれぞれ独立したものとして処理するやり方になります。
こっちでやる場合は、特に難しいことは考えなくていいかと思います。では、やり方を見ていきましょう。

まず、取引が発生したときはそのままの取引をします。
次に為替予約をしたとき…何もしません。別にただ「予約した」だけですから、そこから損益が生じてくることはまでないんですね。
続いて決算時、ここで「取引」と「為替予約」の為替差損益が発生することになります。取引の方に関しては普通に決算日のレートで評価替をし、為替予約は時価で評価することになります。ちなみに為替予約からでてきた差損益の相手勘定には「為替予約」を用いることになります。
では、ちょっと設例で見ていきましょう。

2月 1日:当社は海外の企業に100ドルの輸出を行った。
3月 1日:為替変動リスクをヘッジするため、100ドルの為替予約を行った(売)
3月31日:決算日
4月10日:取引が決済された
t月日直物レート予約レート
2月1日100円
3月1日99円98円
3月31日98円97円
4月10日97円96円

売上が発生した後、どんどん為替レートが円高に進んでいます、為替予約をしていなかった場合には、売掛金の金額も円高によって減少し、大損になるところでした。
さて、為替予約の効果を確認してみましょう

2月1日の仕訳(取引発生)
売 掛 金 10,000 / 売  上 10,000
3月1日の仕訳(為替予約)
仕訳なし
3月31日の仕訳(決算日)
為替差損益  200 / 売 掛 金   200
為替予約   100 / 為替差損益  100
4月10日の仕訳(決済日)
現金預金  9,700 / 売 掛 金 9,800
為替差損益  100 /
現金預金   200 / 為替予約   100
為替差損益  100

ということになります。為替予約を別の取引として処理しているため、売掛金から受け取ることができる金額は4月10日の1ドル97円のところまで減少してしまいます。しかしその分、売で予約した為替予約はプラスになっています。これで結局損した金額は「取引発生から為替予約締結までの100円」のみとなってきます。為替予約を付したことによって変動リスクをヘッジできたのが見て取れますね。

こっちはわかりやすくていいんです。問題は次の「振当処理」なんです…

容認:振当処理

振当処理は、外貨建の債権/債務の価額を為替予約によって固定されている将来の決済額に修正し、その差額を各期に配分していく処理です。何いってるかわかりませんね。結局はさっきの独立処理でもそうでしたが、為替予約によってその債権/債務が決済されたときに日本円で受け取る/支払う金額は固定化されるため、先に債権/債務の金額をその金額にしておいて、差額分はだんだんに配分していこうぜ!ってことのようです。

で、鬱陶しいことにこの振当処理、為替予約をしたタイミングが取引の前なのか後なのかによって若干処理が変わってきます。別々に確認しましょう。

先に為替予約した場合

取引が発生するまでに為替予約をしていた場合は、同日に取引と予約があったものとみなします。
さっきと同じような設例で処理を確認します。

2月 1日:当社は海外の企業に100ドルの輸出を行った。
2月 1日:同日に為替変動リスクをヘッジするため、100ドルの為替予約を行った(売)
3月31日:決算日
4月30日:取引が決済された
t月日直物レート予約レート
2月1日100円 99円
3月31日98円97円
4月10日97円96円

※振当処理によるものとする

ここでは2月1日に取引と予約を同時に行っています。この日の直物レートは100円、先物レートは99円になっています。
ということは100ドル×1円=100円のマイナスで固定されるということになります。

2月1日の仕訳(取引・予約)
 売 掛 金 10,000 / 売  上 10,000
 前払費用   100 / 売 掛 金   100
(↑実質9,900円の取引ということに差額は「前払費用」)
3月31日の仕訳(決算日)
 為替差損益   67 / 前払費用   67
(↑前払費用100円÷3ヶ月×2ヶ月)
4月30日の仕訳(決済日)
 現金預金  9,900 / 売 掛 金  9,900
 為替差損益  33 / 前払費用    33

最初に「前払費用」とした差額分100円を、取引があったときから決済されるまでの3ヶ月に配分しています。
まず3月31日の決算日には、取引から2ヶ月経過しているため67円(四捨五入)取り崩して為替差損益に、1ヵ月後の4月30日、決済と同時に残りの1か月分33円も取り崩すことになります。

後で為替予約した場合

次に取引より後で為替予約を付した場合です。このときには取引~予約間の間にあった為替変動の分も考慮しなくてはなりませんね。また設例でみていきます。

2月 1日:当社は海外の企業に100ドルの輸出を行った。
3月 1日:為替変動リスクをヘッジするため、100ドルの為替予約を行った(売)
3月31日:決算日
4月30日:取引が決済された
t月日直物レート予約レート
2月1日100円
3月1日99円98円
3月31日98円97円
4月10日97円96円

※振当処理によるものとする

この場合ではまず、取引があった2月1日の直物レート100円と3月1日の予約日の直物レート99円までの間は為替変動の影響を普通に受けることになります。よってこの分の差額(直直差額)を為替差損益とし、その時点での先物レートとの差額(直先差額)をさっきと同じように期間配分していきます。

2月1日の仕訳(取引)
 売 掛 金 10,000 / 売  上 10,000
3月1日の仕訳(予約)
 為替差損益  100 / 売 掛 金   100
 前払費用   100 / 売 掛 金   100
(↑直直差額は為替差損益、直先差額は期間配分)
3月31日の仕訳(決算日)
 為替差損益   50 / 前払費用   50
(↑前払費用100円÷2ヶ月×2ヶ月)
4月30日の仕訳(決済日)
 現金預金  9,800 / 売 掛 金  9,800
 為替差損益  50 / 前払費用    50

直直差額を当期の費用とした後は「取引日と予約日が同一の場合」と変わりありません。
しかし予約の方が後になるので、期間配分する月数を間違えないように注意しなくてはなりません。この場合では3月1日~4月30日の2ヶ月間に配分することになります。

正直振当て処理は大変な気がしますが、やってるうちに慣れてくると信じています。
あと、日商簿記2級の試験では期間配分はしないとのことです。

まとめ

外貨建の取引はこれだけじゃなくて、「外貨建有価証券」だとかなんだかんだと今後も登場してきます。ただ、まず基本の部分を押さえておかないと先に進めないため、今回の内容については問題集などでカンペキにしておかなくてはなりません。とにかく振当処理がめんどいです。上で使った例のように最初から為替レートが表になっているとまだいいんですが、問題文のなかに数字が入り込んでいるとやめたくなります…やめたら0点なんですけどね。

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